2022-06-20

コトリンゴ「魚」という曲が好き。

やわらかい海の中を漂うような浮遊感のあるサウンドと、「サカナ」の精神世界を表した歌詞がとてもよく合っていて、心地いい。

歌詞にはサカナの心情の二つの側面が現れていて、一つは「波の音に永遠を見つけた/柔らかい光にやすらぎを感じた」などのフレーズから伝わる、世界の端々から幸せを受けとることができる豊かな感受性。もう一つは、「この世界しか知らないでいいの/たくさんのことを知らないでいいの/そんなふうに生きてゆけたなら」「この世界から連れて行かないで」のように、新しい世界との能動的な関わりを否定する臆病なところ。

自分だけの狭い世界、母親の胎内で暮らすような閉塞感と、「いつまでも泳ぎ続ける」ことのできる空間的な開放感、その相反する情緒が水中というイメージの上で重なって微妙な色彩を描き出している。

そして歌詞の展開で好きなのが、曲が進むにつれて「浜辺」「陸」「風」といった、水中からは認識できないはずの陸の概念が少しずつ登場するところ。また、意識して聞かないと気づかないかもしれないが、歌詞には「海」という単語が初めから終わりまで一度も出てこない。「サカナいつまでも泳ぎ続ける」と歌ってはいるが、「海の中を泳いでいる」とは一言も言っていないのである。サカナの住む世界が客観的に命名されていないということでもあるし、そもそも海に暮らす魚の歌ではないという意味にも取れる。つまりこの曲は、穏やかな海で一生を過ごす魚が陸地への憧れと諦めを歌った歌である一方、そのように描かれる情景そのものが歌い手の精神世界のメタファーでもある!この二つのレイヤーが代わる代わる現れるのがエモい。