2022-03-28

親戚で集まって近所の公園で花見をした。

足腰が衰えて車椅子に乗るようになった祖父が、車椅子の上から犬を呼ぶ。犬は耳が遠くなり名前を呼ばれても気づかない。祖父は犬好きで、十年ほど前には毎週この犬を連れてこの公園で散歩していた。祖父は一人で元気に歩いていたし、犬も元気よく走り回っていたのだった。私は大人になり、みんな十年分年を取った。

祖父が不意に私に話しかけてくる。

「メグ、犬が粗相しても怒らないでやってくれ」

もちろん怒らないよ、と答えた。事実、全然怒ったりしていない。祖父は続ける。自分の身体が思うように動かなくなり、家の中にいてトイレに間に合わないことがある、自分はこの年老いた犬と同じなのだと。側で聞いていた一同が笑う。私はもう一度、怒らないよ、と言った。

排泄をコントロールできない者を罰する意識がずっとあるのだろうということ。祖父も幼い頃に粗相をして親に叱られた経験があるのだろうということ。そのような懲罰意識を多くの人が持つ社会にも、様々な理由で排泄をコントロールできない人が生きているということ。時間も空間も超えた色々な事象が一気に心の中に生まれて、感情が涙になって溢れてきたのを欠伸でごまかした。

祖父は桜を見て「ありがとう」と言った。